私は管弦楽法の授業を受けていた。管弦楽とはオーケストラのことで、その編曲 ( アレンジ ) について勉強する講座だ。
先輩からは、「大変だよ。」とアドバイスされていたのだが、私はオーケストラの曲が大好きだったので迷わず選択した。
課題が大変と噂が広がっていたためか、その講義を選択したのは、わずか10人。
色々な楽器について学び、その音域、移調の仕組み、オーケストラの楽譜の書き方や編曲を実践していく。
私の場合、アレンジを考えるのは、それほど苦労しなかった。しかし、大変だったのは、楽譜を書くことだった。
オーケストラの総譜 ( ※上の楽譜 ) を見たことがある人はイメージ出来ると思うが、あれを1から書いていくのだ。
五線譜に、各パートに音符や休符をポチポチと書いていくというあまりにも地味な作業に、私は気が遠くなりそうになった。
出来れば、勢いに任せて適当に書いてしまいたい。でも、メモ書き風の汚い譜面は、たぶん、誰にも ( 自分にしか ) 読めない。
自慢じゃないが、私は字が下手だ。普段の授業のノートも殴り書きだし、テスト前にノートをまとめたりもしない。
しかし、担当の先生は、一見穏やかそうだけれど目の奥の眼光が鋭い感じで、「もう一度書き直し!」と言いそうな雰囲気だ。
頑張っても、なかなか作業が進まない。しかも、全然楽しくない。だから、提出の前夜は毎回徹夜になってしまっていた。
提出日、先生は、みんなのアレンジを見てニヤニヤしている。先生は、スコアを見ただけで頭で全部の音を鳴らせるそうだ。
「その人の生まれてきてからの音楽環境や普段聴いている音楽などもアレンジに出てしまうから面白いんだよ。」と言う。
「えーっ。」みんなで顔を見合わせる。( アレンジした音楽から、音楽の好みや聴いてきた音楽の歴史が透けて見えるらしい!)
毎週の課題と必死に戦いながらも、単位も無事に取れてホッとした。成績は、意外にもA評価だった。
で、分かったことがある。譜面を起こす作業は、私には向かないようだ。あらゆる音楽の課題の中で、一番つらかったからだ。
現在だったら、パソコンで入力するのだろうが、それでも、一つ一つ音符を貼り付ける作業は、苦行以外の何物でもない。
ちなみに、作曲専攻の人もいたので、「たくさんのページの楽譜を書くのって大変じゃないの?」と聞いてみた。
「楽譜を書くことは結構楽しいよ!自分の音楽が出来上がっていくのが目に見えるから。」と笑顔で答える。
この作業が楽しいと思える人間が世の中にいるなんて、私には信じられない、、、。
確かに、教室の隅で、鼻歌交じりで楽譜を書いている彼女の姿を見掛ける時がある。そこに苦しみの表情は一切無い。
音楽の才能があるのはもちろんだが、明らかに楽譜を書くことも楽しんでいる。そういう人が作曲家になれるのに違いない。
人には、向き不向きというものがある。これは、自分が管弦楽法を学んで実際にスコアを書いてみて、改めて痛感したことだ。
もし、あなたがノートをキレイに書くことに楽しさや満足感を得られるタイプなら、多分『楽譜を書く才能がある』かも!
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